Good News Stand

髪は薄く、メガネをかけ、人の目をあまり見ずに話すオタクな雰囲気の物理のおじさん先生が、なぜだかなんだかカッコよく感じた高校時代。「原爆が作れるらしい」とか「昔はNASAで働いてたらしい」とか、田舎の高校生らしいチープな都市伝説とともに語られていたH先生は、独自の教材、独自の問題集、夏休みに独自の補習を開講、などなど、とにかく独自のオンパレード。
のんびりした校風の国立の一貫校だったので、H先生の個性は教師陣のなかで突出していて、今で言う人気予備校講師のような感じだったんじゃないかと。そんなH先生は授業もわかりやすくて好きだったのですが、それよりも、授業のシメに、その日に出てきた物理法則なんかを、あくまで小噺として聞かせてくれる物理雑談が最高でした。
H先生が授業で、「虹」がなぜできるのか、なぜ7色なのか、なぜ美しいと感じるか、を身振り手振りで面白く聞かせてくれた約1年後、僕は大学受験会場で物理の小論文テストと向き合っていました。

小論文の設問は「虹はなぜできるのか、について回答用紙を自由に使って説明せよ」。

H先生が憑依した僕の鉛筆は回答用紙上をひた走り、最高に面白い小論文、いや小噺が書けました。
調子に乗って、好きな人への告白の瞬間を虹で彩るためのチェック表(出やすいタイミング、場所の選びかた、など)まで書いた記憶があります。
その後、物理準備室まで合格報告に行き、小論文試験の御礼と回答した内容を興奮気味に話すと、「オモシロそうな小論文やな。ということは君は、試験を通して知識を教養にできたんやな。その瞬間が勉強の醍醐味やで。よかったな。覚えとき」と喜んでくれました。いつも通り、視線を少し外しながら。

(writer/きたいりょう)

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